日本人の賃金はもう上がらないんじゃないかと思った「廃業」と「全損」のお話。

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中小企業の「自主廃業」が増えています

財務改善のお手伝いをしていたクライアント企業が、今年に入って2件廃業しました。いずれも理由は人手不足です。求人をかけても、「良い人が来ない」のではなく「応募がない」という状況で、まあ、募集のやり方にも問題はあった気がしますが、私は経営者からアドバイスを求められて、「その職業の地域平均にプラス5万円すれば、いい人が来ますよ」と答えておいたのを覚えています。

大卒初任給が20万円なら、25万円出せと。そりゃ、いい人が来ますよね。しかも、その会社の財務体質から考えて、その人件費の負担はまったく問題ありませんし、人件費を増やしたくないなら、社長が「接待」という名の経費での夜遊びを1回ガマンすれば拠出できる額でもあります。細かいことを言えば、募集しているのと同じ業務担当の給与が23万円なので、調整で26万円くらいにしなければならないなど、試算するとおおむね月間15万円程度の経費増になる計算でした。

でも、社長は数日考えて、「会社をやめるので、清算を手伝ってほしい」と言い出しました。薄々そう言われる予感はしていたのですが、やはり、経営者はこんなにも事業に愛着がないもなのかと驚かされました。一方で、なぜ廃業を予想していたかというと、この会社はけっこう儲かっていて、社長が銀行からの借入の連帯保証をしていなかったこと、さらに、社長の個人資産がウン億単位で蓄財されていて、きちんと資産運用すれば、リタイア可能な状況だったからです。ここまで人生が満たされてしまったら、堕ちるのが怖くなってしまうのでしょうね。だから、人件費を増やす=利益を削ってまで事業を存続させることの魅力を感じなかったのだと思います。

日本人の4人3人は中小企業勤務

分類事業者数従業員数
大企業1.1万者(0.2%)1,433万人(24.2%)
中小企業733.1万者(99.8%)4,488万人(75.8%)

中小企業庁の2016年統計によると、日本は事業者数で99.8%が中小企業で、従業員数でも75.8%、4人に3人が中小企業で働いています。メディアで「春闘ベア0.36%(2017年製造業)」とか「夏のボーナス平均83万9560円(2016年)」とかは、残りの4人に1人の統計です。4人に1人向けにニュースを発信してどうするんじゃ、と私はいつも思っているのですが。多数派である4人に3人は、だいたい冒頭に紹介したみたいな社長のもとで働いているわけで、よほど人事制度が整った中小企業でないかぎり、定期的に昇給なんかしませんし、賞与だって夏冬それぞれ1ヶ月もらえれば御の字という感じでしょう。

会社の利益というのは、事業年度開始前に事業計画を作成してそのとおりに実行していくのですが、まあ、たいていこれがいい加減です。ほとんどの中小企業では、売上高、せいぜい粗利益までの計画を社員に開示して仕事をさせる、というパターンが多いように思います。年度の後半になると、計画と実績の間に差異が出て、埋めるのが非現実的な数字なると、社長も徐々に計画のことを話したがらなくなります。

それでもやってくるのが決算。税理士(たいていは税理士ではなく、無資格の職員なのですが)が頻繁に会社にやってきて、決算の打ち合わせと称して、利益を調整して法人税が出ない方法を考えます。

中小企業会計の象徴「全損」

全損というと、一般的には「クルマの事故で修理不能なまでに大破したもの」を意味すると思うのですが、税理士業界では違います。『「全」額「損」金算入可能な保険』という意味です。つまり、決算ギリギリになって、「うわ、こんなに利益出ちゃう=法人税を払うの?」というときに加入すれば、全額その事業年度の損金、つまり経費として計上できるというタイプの生命保険なんですね。

税理士事務所はたいてい、保険会社と提携しているか、保険代理店もやっていることが多いので、多くの中小企業で発生するこのビジネスチャンスを見逃しません。事務所によっては、担当者にノルマを課して、この全損保険獲得に躍起です。それくらい、税理士事務所にとって全損保険は「美味しいビジネス」なのです。

ちなみに、簿記の知識がない方向けになりますが、生命保険じゃなくて建物やコンピュータを買えば税金を払わなくていいんじゃない?と思うかもしれません。しかし、これは「固定資産」といって、その後数年にわたって一部ずつしか経費にできないというルールがあるのでNGです。

では、従業員(社長や取締役はダメ)に決算賞与として支払えば?実は、これはOKです。つまり、利益が出そうで法人税を払うくらいならボーナスで出すわ!という太っ腹な社長がいたら、それは全額経費として認められます。まあ、見たことはありませんし、経営的にも、全額というのはちょっと乱暴かなと。

これらに加えて、素直に利益を出して「法人税を払う」という選択肢があった場合、税理士事務所のセールストークもありますが、ほとんどの会社は全損保険に入るんですね。ただ、実はこの全損保険、保険商品としてはあまり良いものとは言えないんですよね…。つまり、保険会社の利益が大きいのです。あまりに節税という名の事実上の利益調整に使われるので、以前よりは全損で認められる保険は減りましたが、こんなものは税法上完全に禁止してしまえば、選択肢が減るので、少しは従業員に決算賞与を出そうという社長も増えるのではないかと思います。

ダラダラと書いてしまいましたが、それくらい中小企業の社長は従業員の給与を積極的に増やす気はないし(しかも法律上、上げたら下げにくい)、日本はたいてい中小企業なんだから、日本人の賃金なんてどうやって上がるの?とちゃんちゃらおかしくなる今週の出来事でした。

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ABOUTこの記事をかいた人

そうたろう

FXと節約を組み合わせた記事を書いています。 元会社員、元会社経営者にして元浪費家。現在、事業の失敗で背負った借金をせっせと返済しながらひっそりとフリーランスで生計を立てています。もっと早くお金の正体に気づいておけばよかったな〜などと後悔しながらも、あとの祭り的人生をそれなりに楽しんでいます。