多くの中小企業とかかわって
中小企業の従業員はかわいそう
今回は、執行役員やコンサルタントとして、中小企業の現場を多く見てきた立場からの雑感めいた内容です。
まずは、見出しのとおり「従業員がかわいそう」という感想しかありません。
「サラリーマンが…」などという文脈で語られる大手メディア発信の情報は、たいていの場合、大企業を前提にしていることが多いのですが、日本人の75%は中小企業で働いているので、中小企業で働いている方がこういった記事を読むと、あまりの感覚の差に愕然とさせられることが多いのではないでしょうか。
例えば、最近問題の残業・ブラック労働にしても、「残業手当が出る残業」が前提になっていますが、中小企業の場合は、まず「残業手当が出るかどうか(サービス残業かどうか)」というところが問題なのであって、残業手当が出るなら、ブラックだろうが何だろうが、いくらでも働いてやるよ!という方も少なくないと思います。
この記事では、そんな中小企業サラリーマンが努力して、給料アップをねらうことの非合理性について、私なりの見解を書きたいと思います。
理由1:45歳でも逃げ切れない!会社の倒産リスク
中小企業の資金繰りは、銀行からの借入が前提になっている
たいていの中小企業の場合、資本金は1000万円前後です。
サラリーマンにとって1000万円は大金ですが、事業として考えると、会社の設備や土地建物、運転資金などで1000万円なんてあっという間に消えていきます。
当然、追加で資金が必要になりますが、非上場企業である中小企業の場合、投資家からの調達というのは現実的に不可能なので、銀行から借りてくることになります。
これは、小さな会社であっても、数千万円とか数億円とかいう単位です。
この借入の返済に、住宅ローンのようなイメージを持ってはいけません。
会社の借入というのは一般的に、借入残高が減ったら、減った分だけまた借りるのです。
そして、資金繰りが銀行からの借入を前提にしているので、銀行が突然「貸さない」と言った時点で、会社の資金は回らなくなります。
銀行が貸さないなんてないでしょ?と思うかもしれませんが、「貸し渋り」「貸し剥がし」が過去に何度も問題になっていますよね?
銀行だって民間企業ですから、自分の身が一番かわいいんです。
中小企業が取引する銀行は、ほとんどの場合、地方銀行か信用金庫ですから、今は過当競争から銀行の経営自体が苦しくなっている上に、ドラマ「半沢直樹」でおなじみの金融庁の監視まであり、その方針に従わなければ、厳しいペナルティが課せられます。
それを逃れるためなら、貸出先の中小企業が倒産してもしかたない、というのが銀行融資の実際です。
金融庁って
この金融庁ですが、民主党政権時代の「中小企業金融円滑化法」(元本返済据え置き)に顕著なように、言うことがコロコロ変わります。
あるときはリスク資産を減らせ(要するに「中小企業に貸すな」)、またあるときは中小企業に融資しろ(ノルマあり)、中小企業の転廃業を支援しろ、そして最近は、中小企業の収益向上の具体的な支援をしなさい、となっているようです。
最近で記憶に新しいのは、「スルガ銀行を見習え」でしたが、ご存知のとおり、今や一部業務停止命令を受けているような銀行です。
そういった金融行政に振り回される銀行、さらにそれに振り回される中小企業。
中小企業サラリーマンの生活というのは、こういう脆弱な基盤の上に成り立っているということを、まずは知ってください。
そもそもの生存率
今日、会社(大企業含む)が100社あったとして、残っている会社の数は5年後は14社、10年後は6社、20年後はほぼ0社です。
つまり、皆さんが現在45歳だとしても、65歳の定年退職まで会社がある確率は、ほぼゼロなのです。
給料アップのために努力をして、やっと収入も安定した頃に会社が倒産したら、転職できたとしても、一からやり直しです。
理由2:仕事の努力が給料ではなく「役職」や「責任」で返ってくる
できる人材はこき使われる
残念な事実として、大企業と比較すると、中小企業には優秀な人材がいません。
ですから、社長は、ちょっとでも「使える人材」を見つけると、何でもやらせたがりますし、それなりの役職や責任者にも据えたがります。
しかし、多くの場合、その役職や責任に見合った報酬が支払われることは多くありません。
客観的に見ると、「わずかな報酬アップで、ダメな社員の分も働かされている」というのが悲しいかな現実なのです。
理由3:重い社会保険料負担で手取りが上がらない
給与明細をちゃんと見ていますか?
中小企業サラリーマンの年収幅は、年齢や役職にかかわらず、250〜500万円の非常に狭いレンジにほとんどの方がおさまっています。
月給にすると、下が18万円、上が35万円くらい(賞与を除く)と、およそ2倍といったイメージですね。
これを所得税、住民税、各種社会保険料を差し引いた手取り額で見ると、総支給18万円の場合は約14万5千円、35万円の場合は約27万4千円になります(40歳以下独身のケース)。
その差、わずかに12万9000円。
中小企業で18万円だと新入社員、35万円だと部長クラスです。
業務の負担や責任も違いますし、飲みに行けば部下にご馳走もしなければならないでしょう。
果たして、その負担の差は、12万9000円という金額に見合っているのでしょうか?
上場企業なら、部長クラスで年収1000万円を目指す、というのもそれほど非現実的ではありませんが、中小企業では、ほぼ不可能です。
といいますか、そこまでの能力があるなら、自分で経営者になったほうが、よほど成功する確率が高いと思います。
非現実的な夢を見せる罪
腰掛けか社長か
美辞麗句を並べ立てて、努力すれば必ず成功できる、と煽り立てることは、とても簡単です。
しかし、現実は残酷ですし、起こった結果には、自分以外には誰も責任を取ってくれません。
中小企業で月額12万9000円のために命を削って仕事をするくらいなら、定年退職や失業で仕事を失っても生活が成り立つ方法を真剣に考えるほうが良いと思います。
言い方は悪いですが、中小企業は「腰掛け」で働くか、あるいは突き抜けて社長になるか(代表権だけでなく株もすべて持つ)の二択以外に合理的な選択はありません。
しかし、多くの中小企業は同族経営ですから、他人である従業員に事業を譲るケースがあるとすれば、よほど業績が悪化しているケースがほとんどです。
既に制度が崩壊した年金なんかをあてにしていると、生活が破たんするのは火を見るより明らかです。
そのための節約であり、そのための資産運用だと私は考えています。
このブログの記事が、少しでも皆さんのためのヒントになることを祈っています。
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