「MNP乞食とはなんだったのか」振り返りました。

2015年9月に、安倍首相が突如として「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題だ」と発言したことをきっかけに総務省が事実上の規制に乗り出して今はほとんど終了したケータイ乞食(MNP乞食、古事記などいろいろな呼び名があります)ですが、あの騒動とは何だったのか振り返ってみたいと思い立ちました。

MNP乞食とは

それはソフトバンクから始まった

MNP乞食をまったくご存知ないという方は少ないと思いますが、簡単に説明しておきますと、2006年に始まったMNP(モバイルナンバーポータビリティ)制度により、ユーザーは携帯電話の番号を他社に持ち込んで契約できるようになり、ドコモ・au・ソフトバンクの携帯電話キャリア側からこれを見ると、「競合相手の回線を1回線減らし、自社回線を1回線増やせる」ということになるため、当時は毎月契約数が公表されていたこともあり、報奨金(キャッシュバック)を積んででもMNP契約を獲得したい、という流れが出来上がりました。

はじめは、2年契約の途中解約にかかる約1万円を商品券などで補填します、という控えめな内容のキャンペーンでしたが、折しも2006年はソフトバンクがボーダフォンを買収して劣勢を巻き返そうとなりふり構わない姿勢だったこともあり、ソフトバンクが1万円ならauは2万円、ドコモは3万円…などと、いわゆる「キャッシュバック」競争は加熱の一途をたどることになります。

転売業者の参入

ユーザーもはじめの頃は「損せず乗り替えできる」くらいだったのですが、かなり早い段階で「MNPで乗り替えして端末を売却すると、手元に現金が残る」という奇妙な状況になりました。当初はガラケーだったので端末転売の流動性も限定的でしたが、2007年に発表されたiPhoneが日本でも数年をかけて徐々にユーザーを獲得しはじめ、当初ソフトバンクの取扱い独占だったものが2011年からauでも扱われるようになり、様相が一変します。中国系を中心とした、端末転売業者の本格参入です。

日本のiPhoneにはSIMロックがかけられていますが、転売業者は「脱獄」と言われる方法や、ロムを書き換える特殊な手法を使って、iPhoneをSIMフリーにして中国などで転売することで利益を得ることができました。転売業者も乱立し、買取価格の競争がはじまります。MNP乞食は、少しでもキャッシュバックが高い販売店でMNP契約して、少しでも買取の高い転売業者に端末を売却し、差額の利益を最大化するという情報戦争のような状況になりました。

折しも日本ではtwitterが普及しはじめていたこともあり、こういった情報は販売店や買取店が日々ツイートしてユーザー獲得を競い合いました。携帯電話キャリアの決算期や半期直前には、キャリアから販売店に支払われる販売奨励金(インセンティブ)が積み増しされる傾向があり、これが最高に加熱したのはおそらく2014年2〜3月で、当時のディズニー・モバイル(ソフトバンク)が5台同時契約で50万円のキャッシュバックなどという案件が、各販売店から次々打ち出され、お祭りを超えた狂乱状態になったのです。

それでも一般には知られていませんでした

養分はいつの世も健在

MNP乞食は、各キャリアが設定している簡単なルールさえ理解すれば誰でも元手ゼロで100万円単位のおカネを手にできる夢のような手法だったのですが、ごく一部のユーザー以外はまったくこういった方法を知らず、いわゆる「養分」としてキャリアに高額な料金を払い続けていました。

さすがに50万円、100万円などというキャッシュバック案件が出るとメディアも嗅ぎつけて、ユーザー間の不公平を糾弾する趣旨でワイドショーにとりあげられるなどしましたが、キャリア(そもそもキャリアは大広告主なので、絶対に叩かれません)やMNP乞食が大きく批判され続けるような流れにはならず、むしろ、ゼロサムゲームの消耗戦に疲れたキャリア側が少しずつ自社からのMNP乗り替えを規制するルール変更でキャッシュバック競争が収束に向かったというのが事実かと思います。

同じ時期、何度か総務省から過剰なインセンティブを自粛するよう指導もあったようですが、一時的なキャッシュバック額の抑制はあったもののすぐ元に戻るのが常だったので、これが決定打ではなかったと推測されます。

安倍発言は偶然のダメ押しだった

2014〜2015年は、MNPのキャッシュバックが徐々に減っていくとともに、キャリアが設定するルール(いわゆるキャリアブラック=ルールに抵触すると一定期間そのキャリアで契約できなくなる)がどんどん厳しくかつ複雑になり、ある程度リテラシーの高い人が時間をかけなければ理解できない内容になっていったため、「ライト乞食」と言われていた層の多くは市場から退場していきました。

そこへ冒頭の2015年9月安倍発言、となったわけです。安倍首相の発言内容や、「一括0円」ではなく「実質0円」をメインターゲットとするなど当初まったくピントのずれた総務省による報告内容を見るに、直接にMNP乞食を対象としておらず、実体は安倍首相による、物価目標達成が行き詰まる中での苦肉の策であり、許認可事業だから介入してもいいだろう、程度の思いつきだったことは明白ですが、結果としてこれがダメ押しとなり、MNP乞食は2017年4月現在、ほとんど稼げない状況になっています。

情報力を試す社会実験だった

MNP乞食は、身分証明書と住所さえあれば、元手ゼロで、最低でも年間ウン十万円を手にできる方法論でした。私が当時強く思ったのは、こういった期間にも、世の中には、今日食べる食料を買うおカネもなく子どもにひもじい思いをさせている、などというテレビ番組が放送されているわけです。地上波テレビ局が制作費が安く、視聴者の同情を買いやすい貧困ネタが大好きという病理はさておいて、そのお母さんがケータイショップに行きさえすれば、一時的とはいえ問題は瞬時に解決したというのに、です。

MNP乞食を批判する声もありましたが、違法でない行為を、なぜ契約の当事者でもない私人が批判するのかは今でも理解できません。批判するなら、100万円のキャッシュバックを出しても年間数千億円の利益を出しているキャリアの料金設定であり、経営体質であり、国の許認可制度のあり方でしょう。

MNP乞食に関するノウハウは、一部の人たちだけの間で隠されていたわけでもなく、堂々とネットで流通していた情報です。手を伸ばしさえすれば、そこにある情報でした。今も、同じように手を伸ばせばそこにある情報はたくさんあります。その意味で、MNP乞食は「情報を知らないことは罪である」という社会実験だったのではないかと思っています。

そして、国民の財産であるところの電波を利用する許認可事業が、毎年1兆円に迫る営業利益を上げても(下の表を参照ください)、大広告主であるという理由から、広告代理店の事実上の庇護により世論で批判されないという現状を読み解くリテラシーもまた、情報力トレーニングの良い材料ではないかと思います。

キャリア2014年3月期
(億円)
2015年3月期
(億円)
2016年3月期
(億円)
期間合計
(億円)
NTTドコモ8,1926,3917,83022,413
KDDI6,6326,6578,32621,615
ソフトバンク10,7709,1879,99529,952
合計25,59422,23526,15173,960

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ABOUTこの記事をかいた人

そうたろう

FXと節約を組み合わせた記事を書いています。 元会社員、元会社経営者にして元浪費家。現在、事業の失敗で背負った借金をせっせと返済しながらひっそりとフリーランスで生計を立てています。もっと早くお金の正体に気づいておけばよかったな〜などと後悔しながらも、あとの祭り的人生をそれなりに楽しんでいます。