持ち家派vs賃貸派
持ち家と賃貸は議論のベースが異なる
住宅は賃貸派のそうたろうです。
日本はこれから恐ろしく住宅が余りますからね。
でも、結婚して奥さんがいる家庭なんかでは、だいたい奥さんが持ち家をほしがるので、そうもいかないという事情もよくわかります。
その意味では、現代日本において男性は、結婚する時点で持ち家=長期ローンもセットと割り切ったほうが現実的でしょうね。
「利払い総額が減るから」繰り上げ返済?
その住宅ローンは、最長で35年に及ぶわけですが、けっこう、がんばって毎月の収入の中から繰り上げ返済をしている方が多いんですよね。
それも、何の迷いもなく「利払いの総額が減るから」「完済が早くなるから」などという安易な理由で。
または、借りるときに銀行の担当者に相談して、「30年と35年だとどちらがいいですか?」という質問に「35年にしておいて、繰り上げ返済すればいいです」とアドバイスされ、そのまま実践しているという「いいひと」も少なくありません。
銀行も商売ですからね、そりゃ、利息収入が減るプランなんか勧める訳ないでしょうって話なんですが…。
いずれにしても、組んでしまった超長期ローン。
この記事では、3つの観点から、「住宅ローンの繰り上げ返済はありえない」というお話をしてみたいと思います。
- 住宅ローンでは個人の与信が「水増し」されている
- 住宅ローンは、金利が低い
- 割引現在価値
ファイナンスとして見る「繰り上げ返済」
①住宅ローンでは個人の信用が「水増し」されている
住宅ローンを検討している、またはすでに組んでいる方なら「担保掛目」という用語はご存知かと思いますが、銀行は一般的に、不動産価格の8割くらいしか貸してくれません。
3,000万円の物件なら2,400万円。
つまり、差額は頭金として用意することになります。
ケチだなあ・・・と思われるかもしれませんが、不動産を担保に中小企業が融資を申し込んだら、おそらく1,000万円、よくて1,500万円くらいしか融資を受けられないと思います。
しかも、返済期間は5年〜10年程度と短期です。
それだけ、個人の住宅ローンは優遇というか、特別視されているんですね。
しかし、縁起でもない話ですが、銀行から見て、貸した瞬間に貸し倒れになった場合でも、多くのケースで元本は回収できないといわれています。
住宅ローンのデフォルト(破綻)率は2〜3%とされていますので、他人事とは言い切れませんよね。
返済が行き詰まったとき、持ち主が任意売却してくれればまだ良いのですが、いくら抵当権者であっても任意売却を強制はできませんから、最後の手段として競売になれば、一般的には売却価格も下がってしまいます。
少なくとも、銀行にとってはけっこうリスクがある取引であると言えます。
でも、貸す先に困っている銀行にしてみれば、中小企業に貸すよりはデフォルトリスク(事故になる確率)が低いという判断もありますし、一般にサラリーマンは、家を失いたくないという思いから、無理をしてでも住宅ローンだけは返すので、その意味で目に見えない安心感もあります。
だから、実際に住まないセカンドハウスなんかは、当然融資の審査が厳しくなるわけです。
また、ちょっと専門的な会計の話になるのですが、銀行は、貸したお金に対して「貸倒引当金」というのを積まなければなりません。
引当率は、貸したお金のデフォルトリスクによって種類ごとに決まっており、この額が大きくなると、銀行の自己資本比率が下がります。
そして自己資本比率が4%以下になると、銀行は事業が継続できなくなります。
だから、銀行が最も神経を尖らせる数値は、自己資本比率なんですね。
で、住宅ローンは、この引当金も非常に低くて済むため、利息であまり儲からなくても、銀行は積極的に貸したがるのです。
「僕がいい会社に勤めているから、信用されているんだろうなあ〜」などと勘違いしないようにしてください。
とにかく、政策や金融等の外部理由で、
「普通なら借りられない額のお金を借りている」
「たった1回の特別な権利を行使している」
という感覚をあらためて持っていただきたいと思います。
そして、借りたからには、簡単にこの特権を手放してはいけません。
②住宅ローンは、金利が低い
いま、フラット35で、仕上がり1.5%くらいなんですかね。
住宅ローンの固定金利(長期)は、長期国債(新発10年国債)の利回りに連動して決まります。
今、この利回りは政策的理由からゼロかマイナスですから、当然、住宅ローンの長期固定金利も、非常に低く抑えられています。
銀行にしてみれば、個人というのは、収入がなくなってしまえば一般的にはそれほど資産もありませんし、顧客としてはあまり積極的に付き合いたい相手ではありません。
ですから、住宅ローン以外は、個人に対してはとても高い利息をつけます。
「いやなら借りなくてもいいよ」というのが基本姿勢なんですね。
実際、車や教育関係のローンで4%前後、それ以外は5〜14%とか、後者はいまや、消費者金融と同じ水準です(実際に消費者金融が与信や保証等のファイナンスをおこなっている銀行も多い)。
銀行の調達金利は、ほぼゼロですから、これってめちゃくちゃ高いですよね。
ただ、私が銀行だとして、例えば35歳、年収500万円、資産なし、という方にできる融資は、よくて100万円、利息は5%はほしいところです。
もし、自分が銀行ではない貸金事業者であれば(つまり公的性格がない)、融資を断るか、または利息制限法上限の15%で貸します。
個人に貸すようなリスクをとらなくても、普通に運用すれば、比較的低リスクで10%くらいの利回りは得られますからね。
何が言いたいかというと、とにかく、住宅ローンによる資金調達は、個人としてはあり得ないほど低金利だという認識が必要です。
「運用できる」というのが重要で、住宅ローンを繰り上げ返済するくらいなら、運用すればいいんじゃない?ってことです。
あたりまえですが、資金の調達金利は1.5%なんですから、1.5%以上で運用すれば、その差額が「利ざや」として残ります。
たとえば、FXのスワップ異業者両建て(理論上は為替変動リスクを受けない)なんかを実践すれば、8.8%くらいでは運用できますし、複利も期待できますね。
③割引現在価値
会計学では、「割引現在価値」という概念があります。
簡単に言うと、現在の100万円と10年後の100万円は同じ価値ではない、将来のほうが価値が小さい、ということです。
え?じゃあ、住宅ローンも早く返したほうがいいんじゃないの?というのは考え方が逆で、住宅ローンの繰り上げ返済は、「最も現金の価値が低い状態で返してしまう」ということを意味します。
貸している側はなるべく早く、返す側はなるべく遅く返すほうがメリットが大きいんですね。
これは、さきほどの項目で述べたとおり、その期間運用ができる、という帰結でもあります。
返しちゃったら、わずかな支払利息は減りますが、運用はできませんからね。
まとめ
家庭や夫婦間では感情論が優先されがち
ここまで住宅ローンの繰り上げ返済について書いてきましたが、それでも、ときに家庭内や夫婦間では経済合理性より感情論が勝ってしまう場合も少なくありませんし、「借金は嫌い」「運用は危険」などという家庭(奥さん?)は、せっせと繰り上げ返済されることが、精神衛生と家庭平和に貢献すると思います。
また、1.5%以上で資金を運用する自信がない、という方も、繰り上げ返済したほうが良いでしょう。
一つだけ付言するとすれば、個人は金融機関とは違い、短期的な利ざやだけが利益という訳ではありません。
収入を上げるために勉強をする費用や、体を健康に保つための費用も、広い意味での投資であると言えます。
いずれにしても言えることは、手元にキャッシュがなければ何もできないということですね。
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